監督はキム・ユソン、主演はピ(Rain)が務めている。
日本統治下の朝鮮を舞台に、スポーツと時代背景を結びつけて描いた作品である。
🚴スポーツという題材で日本統治下の朝鮮を描く異色作
韓国映画『自転車王オム・ボクトン』感想レビュー
韓国映画『自転車王オム・ボクトン』は、日本統治下の朝鮮を舞台に、実在した自転車選手オム・ボクトンの人生をモチーフに描かれたスポーツドラマ。 主人公オム・ボクトンを演じるのは、俳優・アーティストとして長年活躍を続けるピ(チョン・ジフン/Rain)。 共演にはカン・ソラ、イ・ボムスらが名を連ね、個人の挑戦が時代や社会と結びついていく過程を描いている。
本作の特徴は、レースの爽快感や勝敗のカタルシスよりも、「スポーツで勝つこと」が当時の朝鮮の人々にとってどのような意味を持っていたのかを描こうとしている点にある。

史実をベースにしたフィクション映画。直近でも同様の韓国史実映画を鑑賞したが、意図したわけではなくたまたまである。
Amazonプライムビデオでは『自転車王オム・ボクトン』という邦題が使われているが、「ボクドン」と表記されているサイトも多い。 英語表記は「Um Bok Dong」であり、発音的には「ボクドン」が近いと思われるが、本レビューでは配信サービス表記に従い「ボクトン」とする。
本作は、銃や武器ではなくスポーツによって社会を変えようとする物語である。 ただし、作中のオム・ボクトン本人はあくまで賞金目当てで走っており、「国を変える」といった明確な思想を語る人物としては描かれていない。 終盤になるにつれ「朝鮮の人々の想いを背負う存在」としての空気は強まるが、映画が描きたいテーマと主人公の内面が完全には噛み合っていない印象も残る。
物語の方向性とキャラクターの心情にズレが生じている点は、本作の弱点か。
それでも、武力による抵抗を選ぶ過激派と、スポーツで勝つことで人々を鼓舞しようとする穏健派の対立構造は見応えがある。 説明不足な部分は多いものの、実在の人物を軸に、周囲の人間関係をドラマティックに膨らませた本作からは、確かな意欲を感じた。
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『自転車王オム・ボクトン』あらすじ
しかし彼の活躍は、次第にスポーツを超えた意味を帯びていく。日本側の妨害や圧力が強まる中、オム・ボクトンは自転車に乗り続けることで、自らの尊厳と民族の誇りを守ろうとする。
スポーツ映画であり、歴史映画でもある曖昧な立ち位置
韓国映画『自転車王オム・ボクトン』の舞台は1910年代の朝鮮。 自転車が庶民に普及し始め、それによって自転車レースが娯楽として人気を集めていた時代背景が物語の土台となっている。
しかし本作は、実際のところは純粋なスポーツ映画というよりも、武力による抵抗運動と、スポーツによって国民を鼓舞しようとする動きを並行して描いた作品だ。銃撃戦や爆発といったアクションシーンも随所に挿入されるが、演出にはやや古さを感じる部分も否めない。
鬼気迫るというものがなかった。
ストーリーのテンポは速くも遅くもなく、それでも前述の通り表現の弱さはあるものの、過激派によるテロ行為や自転車レースの場面では一定の盛り上がりが用意されている。 緩急の付け方そのものは悪くなく、全体としてのリズムは安定している印象だ。
まさに自転車で登ったり下ったりを繰り返しているよう。
ただし、スポーツ映画にありがちな友情や恋愛要素もそこそこ見せてくるが、あれもこれもと詰め込み過ぎて収集がつかなくなったのか、どれも中途半端で描き切れていない印象。結果として描写が散漫になっている。 十分に掘り下げられていない点は惜しい。
余分なエピソードを削ぎ落とし、物語をコンパクトにまとめていれば、完成度はさらに高まったのではないか。
それでも本作は決して駄作ではなく、 1900年代初頭の大日本帝国による支配の厳しさや、当時の朝鮮の人々の生活感を描き出しており、史実ベースのフィクションとして当時の空気を体感できる作品となっている。 日本側の描写はかなり厳しいため、日本人が観ると複雑な感情を抱く可能性はあるが、あくまで映画表現として冷静に受け止めたいところだ。
主人公オム・ボクトンと「英雄像」のズレ
実在のオム・ボクトンがどのような人物であったのかを調べてみたのが、映画以外の一次的な資料は多くは見つからなかった。 とりあえず確認できた事実としては、自転車レースで数多くの勝利を収めた人物であることと、そして彼が実際に使用していた自転車が現在ソウル歴史博物館に展示されているということである。
実は韓国でもあまり知られてないのでは?
『自転車王オム・ボクトン』においても、主人公はレースで勝ちまくる。しかし、そこに「国を背負う英雄」としての自覚はほとんど描かれない。 いや、全く描かれない。あくまで賞金目当てでレースに参加し、結果として勝ちゃってますってカンジ。「このレースで国を変えてやる!」みたいな意気込みもなく、副産物として朝鮮の人々を勇気づけたという位置取りだ。
作中では穏健派が、オム・ボクトンの存在を象徴的に利用しようとするが、彼自身が歴史を動かしたという実感は薄い。 実際、何も変わらないし。
レースで勝ちまくったという事実は本当らしいから、おそらく本作は、レースで勝ち続けた実在の英雄と、独立運動という歴史的テーマを結び付けようとしたのだろう。 しかし、オム・ボクトン本人にそうした意識があったのかどうかは作中では語られないから、そのため両者のつながりは観客に十分伝わらない。
その部分はフィクションだろうし。
ラストでようやくその二つをつなげてくる展開を見せるが、やや唐突で、後付けの印象は否めない。 純粋に大日本帝国統治下の朝鮮で、日本人選手を相手に勝ち続け、朝鮮中に勇気を与えた英雄として描いた方が良かったのではないか。あくまでオム・ボクトンはレースで勝った英雄であって、独立運動をひっぱった英雄ではない。レースで朝鮮の人々に勇気と希望を与え、それによって独立運動が活発化した、ということならば納得がいくが、本作はオム・ボクトンがいようがいまいが過激派は行動を起こしているので、それがない。
本作は、分野の異なる二つの英雄像――スポーツの英雄と独立運動の英雄――を無理に接続しようとした結果、物語に歪みが生じてしまった作品だといえる。
少々酷評したが、それでも決して駄作ではないことは申し上げておく。私は★4のレビューをつけた。細かいところは気になるが、全体としては一定の完成度を保っている。 なにしろ、監督のキム・ユソンは本作を製作途中で自主登板し、監督のキム・ユソンが製作途中で降板し、残されたスタッフによって完成された作品であるという制作背景を考慮すれば、その点も評価に値するだろう。
評価は低くないが、気になる点も多い作品
何度も述べているが、韓国映画『自転車王オム・ボクトン』は決して駄作ではない。あんまり擁護すると反って嘘っぽいが、本当である。Amazonレビューでは★3.8、外部レビューでも★3.2〜3.6と、おおむね平均以上の評価を得ている。
実在の英雄を題材にし、日本統治下の朝鮮と独立運動という重いテーマをエンターテインメントに落とし込もうとした意欲は十分に伝わってくる。 しかしそれでも、気になったポイントをいくつか紹介しよう。それによって、未見の方は鑑賞するかどうかの判断をしてほしい。
自転車レース映画として致命的なスピード感の欠如
本作最大の欠点は、自転車レースを描いているにもかかわらず、レースシーンにスピード感が全く感じられない点である。
レースであるのに、とにかく遅い。そりゃあ現代の日本の競輪やヨーロッパの「ジロ・デ・イタリア」「ツール・ド・フランス」「ブエルタ・ア・エスパーニャ」といった三大自転車レースと比べると、当時を描く本作の路面は土だし自転車はクラシカルだし、運転技術も未成熟だろう。それでも、それにかけても遅い。ママチャリで公道を全力疾走している男子学生の方がまだ速いくらいである。
以前のレビューでも私は申し上げたが、やはりスポーツを映画で扱うのには難しいところがある。スポーツ映画では俳優の身体能力がそのまま画面に出てしまうからだ。
今回は自転車という“道具”を使う競技であるがゆえに、技術不足がより顕著に映ってしまった。おそらく専門的な指導者を十分に起用しなかったのだろう。 結果として、疾走感とは程遠い、鈍重なレースシーンになってしまっている。
チンタラ走って、迫力さの欠片もなかった。
日本人役の日本語が聞き取れない問題
本作は大日本帝国が統治している朝鮮という舞台であるから、日本人キャラクターの登場は避けて通れない。しかし本作では、日本人役を演じているのは日本人俳優ではなく韓国人俳優である。彼らは日本語を話すわけだが、その日本語があまりにも拙い。ネイティブジャパニーズでも聞き取れないほどの日本語であった。 加えて、俳優陣も自信がないのか、台詞が小声になり、余計に聞き取りづらくなっている。
いっそ韓国語で話していたほうが、むしろ違和感がなかったのではないか。
いうて日本語を話す主要人物は三人くらいだったから、無名でも日本人俳優を起用したほうが説得力は高まっただろう。
とはいえ、まぁ韓国国内主体で、そもそも日本公開は視野に入れてなかったのかもしれない。そこを考えると、まぁ日本で視聴する私のわがままとも言えるかもしれない。
回収されないエピソードが生むストーリー上の違和感
ストーリー面で特に気になったのが、オム・ボクトンの弟に関するエピソードである。 弟は満州へ出稼ぎに向かい、意味深な描写がなされるが、その後の展開は描かれないまま物語は終わる。
その出来事は、オム・ボクトン本人や家族にも共有されず、物語上の因果関係も生まれない。 なぜこのエピソードを入れたのか、意図が見えない。
大日本帝国の残酷さを描きたかったのかもしれないが、別に弟でなくても良かった。主人公の弟を用いたからこそ意味ありげに映り、反って肩透かしを食らう形になってしまったのだ。この出来事を主人公の動機や感情の変化につなげることもできたはずだが、そうした展開も用意されていない。
一体アレはなんだったのか?謎である。
こんな人にオススメ!
『自転車王オム・ボクトン』は万人向けの作品ではないが、刺さる人にはしっかり刺さるタイプの映画である。 以下に当てはまる人であれば、本作は十分に鑑賞する価値があるだろう。
- 日本統治下の朝鮮を描いた韓国映画に関心がある人
- スポーツ映画よりも、時代背景や社会性を重視する人
- 史実ベースのフィクション作品を、粗も含めて楽しめる人
一方で、爽快感のあるレース描写や、分かりやすいヒーロー像を求める人には合わない可能性が高い。 その点を理解したうえで観ることを勧めたい。
スポーツ映画としてではなく、歴史ドラマとして観るべき一本
『自転車王オム・ボクトン』は、自転車レースを題材にしてはいるが、純粋なスポーツ映画ではない。 むしろ、日本統治下という時代において、ひとりの男の成功がどのように受け取られ、利用され、意味づけられていったのかを描いた歴史ドラマに近い作品である。
演出や構成に粗はあり、傑作であるとは言い難い。 それでも、実在の人物を通して当時の空気や価値観を映し出そうとした姿勢は評価できる。
スポーツの爽快感ではなく、時代に翻弄される個人の姿や、英雄像の曖昧さに目を向けられるのであれば、本作はそれなりに印象に残る一本となるはずだ。
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映画『自転車王オム・ボクトン(2019年)』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:キム・ユソン
- 出演:ピ, カン・ソラ, イ・ボムス
- 公開年:2019年
- 上映時間:116分
- ジャンル:ドラマ, スポーツ, 時代劇