監督はキム・ドヨン、主演はチョン・ユミとコン・ユが務める。
物語は1982年生まれの女性・キム・ジヨンの日常生活と社会的な体験を描くものである。
🤷♀️ごく普通の女性の日常を記録した、静かなフェミニズム映画
韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』感想・レビュー|共感型ゆえに戸惑った一本
韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は、結婚・出産を経て日常を送る一人の女性の人生を描いた作品である。主人公キム・ジヨンを演じるのはチョン・ユミ。特別な事件や極端な不幸が描かれるわけではなく、どこにでもありそうな「普通の生活」が淡々と積み重ねられていく。
夫デヒョン役にはコン・ユ。仕事に追われながらも家族を大切に思う、ごく一般的な夫として描かれており、二人の関係は一見すると破綻していない。家庭は安定して見え、目立った問題もない。
しかし、そんな日常の中で、ジヨンはある時を境に、まるで別人になったかのような言動を見せ始める。それは激情や暴力ではなく、ごく静かで穏やかな変化だが、明らかに「本人ではない」振る舞いだった。この異変をきっかけに、物語は現在と過去を行き来しながら、ジヨンがこれまで歩んできた人生の断片を少しずつ映し出していく。
本作はいわゆるフェミニズム映画に分類される作品であり、女性が社会や家庭の中で当たり前のように背負わされてきた役割や違和感を、強い主張ではなく記録として提示していく。
韓国スリラー映画『スリープ』を観てチョン・ユミに興味を持ち、本作を視聴。
正直な感想を申し上げると、「よく分からなかった」というのが本音である。ただし、それは雑につまらなかったという意味ではない。作品のクオリティや演技の良さははっきり感じられるし、最後まで退屈せずに観てはいる。
よく分からない映画のレビューをどう書くのか。私には得意技がある。
「よく分からなかったということを書く」。これに尽きる。
思うに本作は完全な共感型映画である。刺さる人には深く刺さり、刺さらない人にはほとんど手応えが残らない。それでも面白くないわけではなく、観終わったあとに判断だけが宙に浮く。私にとっては、そんな不思議な一本だった。
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『82年生まれ、キム・ジヨン』あらすじ
しかしある日、彼女は突然、別人のように話し始めるという不可解な症状を見せるようになる。
夫は戸惑いながらも彼女を支えようとし、専門家の診察を受けることになる。
診察を通して浮かび上がってくるのは、ジヨンがこれまでの人生で経験してきた、家庭、学校、職場、結婚、出産といった場面での小さな違和感や抑圧の積み重ねだった。
本作は、一人の女性の異変をきっかけに、特別な事件ではなく「日常の中に埋め込まれた構造」を静かに描いていく。
フェミニズム映画だが、主張しないという選択
フェミニズム映画と聞くと、思想の強さや対立構造を想像して身構えてしまう人も多いだろう。しかし『82年生まれ、キム・ジヨン』は、近年よく見られる「男性を貶め、相対的に女性の地位向上を訴える」というフェミニズムをはき違えたタイプの作品ではない。
本作は主張しない。説明もしない。思想を観客に押し付けることもない。ただ、ひとりの女性の人生を記録するという姿勢を徹底している映画である。
『82年生まれ、キム・ジヨン』は、実に淡々と主人公キム・ジヨンの半生を追っていく。中流家庭に生まれ、不自由なく育ち、大学へ進学し、就職、結婚、出産。出産を機に仕事を辞め、家庭に入る。その人生は、決して悲劇的でも、極端に不幸でもない。そんな彼女の、壊れたものを映し出す。
派手な事件や劇的な展開はなく、ラストに大きなカタルシスを得られるものではない。あくまで日常の延長線上で物語は終わる。
Amazonプライムビデオでの評価は★4.4と非常に高い。一方、私自身の評価は★3である。可もなく不可もなく、というのが率直な感想だ。
思うに共感型の映画であると上述した。主人公キム・ジヨンの人生や感情と重なる部分が多い人ほど、深く刺さる構造になっているだろう。
参考までに私とキム・ジヨンを比較すると、私は中流家庭に生まれ、不自由なく育ち、大学へ進学、そして就職はしたものの超絶ブラックで半年で退社、その後は転職と退職を繰り返し、結婚はせずもちろん子どもはいない。作中でジヨンは働きたがっていたが、私は労働なんてまっぴらゴメン。現在は資産運用とちょっとした副業で生計を立てている。精神は安定しておらず、月一回精神科に通う男性だ。
似ているようで似ていない。
ジヨンは社会や家庭の中での役割に生きづらさを感じている。私もまた現実世界に生きづらさを感じているが、その方向性は明らかに異なる。誤解を恐れずに言えば、私が男性であることが、この作品に強く共感できなかった一因なのかもしれない。
実際、本作は原作小説・映画ともに女性からの支持が厚い。一方で、興味深いデータも存在する。
公開3日目の10月26日午前9時30分の時点でのポータルサイト・ネイバーの映画レビューサービス「ネイバー映画」によると、合計1万8569人のネットユーザーが点数をつけたが、女性利用者が付けた点数の平均値は9.48点に対し、男性利用者が付けた点数の平均値は1.87点であり、平均点数は5.62点となった。一方、実際に映画を見た観客の評価によると平均点数は9.53点で、うち女性観客がつけた点数の平均値は9.59点、男性観客がつけた点数の平均値は9.43点でそれほど大きな差がなかった。
映画を実際に鑑賞した観客の評価では、男女差はほとんど存在しない。つまり、本作は「女性向け映画」と単純に切り捨てられるものではない。
それでもなお、私には強く刺さらなかった。それは本作の欠点ではなく、受け手との距離の問題だろう。
しかしながら私は映画評論家ではなく、ただ趣味でレビューを書いているだけなので、客観的な評価はできるはずもなく(努力はしているが)、主観的に批評するに留まるしかない。
結論として、『82年生まれ、キム・ジヨン』は、刺さる人には深く刺さり、刺さらない人には驚くほど刺さらない。しかし、それでも決してつまらなくはない。不思議な立ち位置の映画である。
あえて言うなら、この映画に「見どころ」はない
普段であれば、私はこのあたりで映画の見どころをレビューとして挙げていくところだが、『82年生まれ、キム・ジヨン』に関しては事情が少し違う。あえて言うなら、本作にはいわゆる映画的な見どころは存在しない。印象的な名シーンや、感情を大きく揺さぶるクライマックスは用意されていないのだ。
そういう意味では、正直なところ「ツマラナイ」と感じてしまう人がいても不思議ではないだろう。
しかしそれは欠点というより、意図された構造なのではないか。キム・ジヨンの人生は、特別な事件や劇的な不幸によって壊れたわけではない。日常の中で積み重なっていく違和感や負荷によって、少しずつ摩耗していった結果なのである。
近年は改善されつつあるとはいえ、男性優位の社会的構造、嫁姑問題、母親であることを前提とした役割の押し付け、自身が思い描いていた理想像と現実とのギャップ。そうした現実世界に存在する要素が、静かに、しかし確実にジヨンを疲弊させていく。
だからこそ、この映画は終始淡々としている。派手な演出を排し、説明を最小限に留め、観客に判断を委ねる構成だ。見どころが「ない」のではなく、見どころとして切り取れる瞬間を、あえて作らなかったフェミニズム映画なのである。
この”淡々”に共感できる人には強くオススメできる。自分と重ね合わせて、深く心に響くだろう。逆に劇的な展開や、ある種の”勝ち取っていく”映画として期待していると肩透かしを食らい、評価を下げるかもしれない。
『日日是好日』との比較で見えてくる違い
本作を観ながら、私は何度か日本映画『日日是好日』を思い出した。どちらも女性の人生を静かに描き、派手な事件や劇的な展開を排した作品である点は共通している。
そして『日日是好日』もレビュー評価は★4.5前後と非常に高く、多くの人から支持されている作品だ。
しかし、両者の鑑賞後の感触は大きく異なる。『日日是好日』は、淡々としていながらも私にとっては「良かった」と明確に言える余白が残る映画だった。一方、『82年生まれ、キム・ジヨン』は、同じように静かな作品でありながら、感想や評価を言語化しづらい。
レビューを書くにあたっては辛いところだ。
この違いは、描いている対象の性質にあるように思う。『日日是好日』が個人の内面や時間の積み重ねを描く映画であるのに対し、『82年生まれ、キム・ジヨン』は、社会構造の中で生きる一人の女性の人生を記録する映画に近い。
前者は、茶道という明確な軸があり、視聴者が自身の経験や感情を投影しやすい。一方で後者は、結婚、出産、家庭、仕事といった極めて現実的で、かつ立場や性別によって距離感が大きく変わる題材を扱っている。そのため、共感できるかどうかで受け取り方が大きく分かれてしまう。
『日日是好日』が「静かだが心地よい映画」だとすれば、『82年生まれ、キム・ジヨン』は「静かだが判断を委ねられる映画」である。良い・悪いではなく、観る側の立ち位置や経験が、そのまま評価に反映されてしまうタイプの作品なのだ。
こんな人にオススメ!
『82年生まれ、キム・ジヨン』は、誰にでも無条件にオススメできる映画ではない。だが、以下のような人には強く刺さる可能性がある。
- 派手な展開や分かりやすいカタルシスを求めない人
- フェミニズムを「主張」ではなく「記録」として描いた映画に興味がある人
- 自分自身の立場や価値観を静かに問い直したい人
逆に言えば、明確な答えや感動を映画に求める人には、少し肩透かしに感じられるかもしれない。
まとめ:評価が割れる理由が、そのまま本作の特徴
韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は、完成度が低いわけでも、演技が拙いわけでもない。それでも私に「よく分からなかった」という感想が生まれるのは、この映画が視聴者に寄り添うことも、導くこともせず、判断を丸ごと委ねてくるからだ。
刺さる人には深く刺さり、刺さらない人には最後まで距離が埋まらない。それでも、つまらないとは言い切れない。その曖昧さこそが、本作がフェミニズム映画として選んだ表現なのだと思う。
私には強く刺さる作品ではなかったが、高い評価を受けている理由は理解できる。だからこそ、本作は観た人それぞれの立場や経験が、そのまま感想として表に出る映画なのだろう。
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映画『82年生まれ、キム・ジヨン』の作品情報まとめ(監督・キャスト・配信情報など)
- 監督:キム・ドヨン
- 出演:チョン・ユミ, コン・ユ, キム・ミギョン
- 公開年:2019年
- 上映時間:2019分
- ジャンル:ドラマ

